人形と共に歩んだ心の旅

創作人形工房「木綿(ゆふ)の声」-下川明子さん 日の出町-

「森の幼児園」(部分)

「森の幼児園」(部分)

 糸が好き、布が好き、手仕事が好きで服や人形を作りながら、“心の旅”を続けて来た下川明子さん。日の出町平井の自宅の一角をリフォームして、創作人形工房「木綿の声」を公開している。「あやとり」や「あっかんベー」に夢中になっている子どもたち、物思いにふける青年や女性像など50体ほどが並ぶ。その自然な表情や姿は下川さんの心の旅の結晶である。

何気ない仕草を捉える

 下川さんの創作人形工房は、JR五日市線武蔵引田駅から北へ約10分。新興住宅地のはずれにある、薄緑と白の2階建ての建物だ。
 「手狭でささやかな展示ですが」と、迎えてくれた下川さんは60代後半とは思えない童顔だ。15平方㍍ほどのフロアと、その2階が展示室になっている。浮かない顔をした女児の「おるすばん」、土管の中で幼児2人がにんまりしている「秘密の場所」、粋に脚を組んでまどろんでいる女性像など、下川さんの人形ワールドが展開される。
 目鼻だけでなく手足の指先まで自然体。見ていると幼馴染みの顔がダブってきたりしてドキドキしてくる。「人形とはいえ、しぐさが自然であることが、私の目指すところで、技術と表現への挑戦です」と下川さんはいう。

布に触れ自分を取り戻す

創作に励む下川明子さん

創作に励む下川明子さん

 新潟県新発田市で6人兄姉の末っ子として生まれた。2歳半で母親と死別。「そのためか心を閉ざした」子どもだったと下川さんは語る。高校卒業後、姉を頼って上京。就職先の社員寮で開かれていた洋裁教室で、作る楽しさを知る。洋裁学院の夜間教室で学び、助手に推されたが、自由に服を縫いたくて断った。
 結婚後も洋裁は続けていた。家事と2人の男の子の育児に追われる日々の中で、布や糸に触る時間が自分を取り戻すことができる時間だった。ことにインドの手織り木綿の温かさに出合って、それまでのスタイリッシュな服作りから、自由で独創的な服を作るようになった。
 40代になって「いい妻、いい母親の殻を破りたい」と、オープンした朝日カルチャーセンター立川の「創作人形教室」へ通い始めた。4年ほど通った後、1995年に手作りウエアの工房「木綿の声」を始めた。
 ところが1998年秋、長男が不慮の事故で他界。慎重で思いやりのある26歳の青年だったのに……。数年は泣き通しで、立てなくなるまで衰弱、工房も休業状態になった。
 窮地から救ってくれたのは、長男の面差しが残る人形だった。
 2002年、58歳の時、創作人形に再挑戦。粘土で原型を作り、石膏で型を取って和紙を張り重ねて頭を創る。その頭を肌色の布でくるみ、ボディを作りながら髪型や衣服を考えていると、新しい自分に出会う。

存在感のある人形を

創作人形工房「木綿の声」

創作人形工房「木綿の声」

 工房の2階には「森の幼児園」と題して、枯れ枝や倒木などが横たわる森の中で、子どもたちが思い思いに遊んでいる情景を創作。春になれば草木を茂らせて、緑の中で遊んでいる子どもたちの人形も増やして……、下川さんのイメージは膨らみ続ける。「人形創りも葛藤の連続。思わず微笑みたくなるような、存在感のある人形を創りたい。次世代への希望も込めて」。
 一昨年、生死をさまよう病気から立ち直ったのを機に、リニューアル公開を目指してきた。

 毎月10日~20日(1月と8月は休み)、10~17時開館。入館料450円。駐車場あり。
 電話番号:042-597-4909(日の出町平井1425)

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