ヤナギハンター歴30余年 初のヤナギ図鑑出版 吉山寛さん(91) 八王子市

 シダレヤナギが細い枝をなびかせて、辺りを柔らかい緑にけぶらせ、川辺でネコヤナギが銀鼠色のモフモフ花穂を輝かせる季節。八王子市に住む植物研究家・吉山寛さん(91)が識別の難しいヤナギを詳細に解説した、初のヤナギ図鑑『ヤナギ ハンドブック』が刊行された。縦横18・02×11・02㌢サイズながら、各種の特徴が分かる生態写真や部分のアップ、線画で雌雄の花を図解、類似種との比較が出来る密度の濃い図鑑だ。コラムでヤナギがより身近に感じる。

日本産ヤナギ属35種とヤナギ属雑種31種全て掲載

自宅庭の柳園で、挿し木で育てたフリソデヤナギの花穂の開花を確かめる吉山寛さん

 奈良・平安の昔から詩歌に詠まれ、戦後の流行歌「東京ラプソディ」などでも親しまれてきたヤナギだが、シダレヤナギかネコヤナギくらいしか、知らない人が多いのではないだろうか。吉山さんによると、ヤナギ科植物は世界に約1250種存在するとされ、北半球にのみ分布。中国に約200種、日本には関東以北に多く35種、ヤナギ属雑種31種が分布しており、同書にはそれら全てを1種ずつ見開きページで、全形写真、葉の裏表実物大写真、雌雄の花序の写真と花の図解、冬芽、新葉など解説とともに紹介。
 「おにぎりが包めるような丸い葉のヤナギもあるの!」と刊行早々、知人から驚きの電話が掛かってきたそうだ。ヤナギには笹の葉のように細長い葉ばかりでなく、丸い葉もあり、地に這うような低いタイプもあるのだ。

花弁のないヤナギの花の美しさに惹かれて

フカオヤナギの雄花。葯(花粉袋)が紅色で美しいが、花粉を放つと黄色に見える

 私立八王子高等学校教諭時代から、吉山さんは植物の研究を重ねて来た。高尾山の植物の権威で、高尾山の自然保護活動にも力を入れてきた。野草より人が目を向けない樹木に、興味を持つようになった。樹木は芽吹きから落葉まで、四季の変化が楽しめる。

フリソデヤナギの花穂

 春真っ先に、細枝に小さな花が密集した花穂をつけるネコヤナギは、浅川べりにもある。銀色の毛にくるまれた花穂に、黄色か紅色の葯をつけた蕊(しべ)が立ち上がって来る。開花の時だ。「ヤナギの花には花弁がない。桜のように花びらに惑わされない美しさがある」と、吉山さんは、庭先に設けた私設「柳園」で、フリソデヤナギの花穂に目を細めた。

定年後、ヤナギを訪ねて歩く

『ヤナギ ハンドブック』の表紙(左)とシダレヤナギのページ(見開き)

 55歳で定年後、吉山さんはヤナギを訪ねてほぼ全国を歩いて30年余。同書にはヤナギハンター吉山さんお奨めの長野・上高地、群馬・湯檜曽川(ゆびそがわ)、あきる野市・横沢入りのヤナギ群落など、観察適地も紹介されている。
 ヤナギは挿し木で容易に根付くので、吉山さんは訪ねた先々で小枝を持ち帰り、西浅川の高台にある自宅の庭で、約30種を栽培。10㍍近い高木に育っている種もある。詳細に観察、標本もできるので、同ハンドブックをまとめることができた。
 「植物を相手にしてきたから、この年まで長生きできた」と、相好を崩す吉山さんは、石川啄木の短歌「やわらかに柳あをめる北上の岸辺…」や、軽部烏帽子(かるべ・しどみ)の句「静かにもこずゑはなるゝ柳絮(りゅうじょ)かな」の情景を、ひたすら求めてきたそうだ。柳絮=白い綿毛のついた柳の種子。

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