薄れてしまう記憶 和紙造形作家 柳井嗣雄さん個展 9月15日まで 国立市で

 20世紀の歴史上人物、20人の頭像(立体)を2000年に完成。「遺物」シリーズと名づけて発表した。昨年から今年にかけて、新しい作画方法でその平面バージョンを制作。今回の個展は立体20点と平面20点の同時展示だ。「未来の人類は、我々を発掘した時、我々をどのように記憶しているか。デジタル化が進化すれば、記憶能力は退化するのではないか」と制作者の柳井嗣雄さん(65・埼玉県)は問いかける。

紙漉き工程の中で描く

「遺物」シリーズ・平面バージョンの作品。左からガンジー、マリリン・モンロー、ジョン・F・ケネディ、黒澤明、小林秀雄、アルベルト・ジャコメッティ

 国立駅南口から大学通りを南へ徒歩20分。住宅街の中に会場の宇フォーラム美術館はある。手前の部屋に128×89㌢の大きな和紙いっぱいに、ピカソ、ヒッチコック、マリリン・モンロー、三島由紀夫、田中角栄、ジョン・レノン、チャップリン、アインシュタイン、ヒトラーなど20人の顔が描かれている。その精巧さに「プリント?」という人もいるくらいだ。
 黒く染めた紙原料を流しながら紙漉き工程の中で描いていく。落水という技法で上から水滴を落とし、小さなドットのような穴を開ける。最後にバックとなる白い楮(こうぞ)の和紙原料を流し込み、板張りして天日乾燥する。この新しい技法を柳井さんは紙の繊維で描く「ファイバー ドローイング」と呼ぶ。
 銅版画家としてスタートした柳井さんだが、オリジナルの版画用紙を求めて自ら紙漉きを始めて35年がたつ。ファイバー ドローイングはその長き紙漉きの経験から生まれた技法といえる。

立体の頭像制作は近親者の死がきっかけ

柳井さんが私的に選んだ歴史に残る20世紀の20人の「遺物」。どの顔も無表情で、朽ち果て、今にも壊れそうだ

 同美術館の奥の区切られた空間に幅・奥行50㌢、高さ70㌢の頭像20点が並ぶ。風化して穴が空き、土の中から掘り出された「遺物」のようだ。
 金属ネットで骨格を作り、紙原料を絡ませて1カ月間天日にさらして作った1997年から99年の作品だ。
 1986年頃から柳井さんは作品としての和紙を発表。やがて「物質と生命の記憶」をテーマに立体作品に取り組むようになった。

柳井嗣雄さん。遺物シリーズ(平面バージョン) ピカソの絵の前で。そのデッサン力は高く評価されている

 遺物シリーズのきっかけは、父親と親しい人の死だった。「現代の高速デジタル化社会にあって、我々の記憶はすぐに薄れてしまう。つい最近亡くなった人物ですら、たちまち記録上の遺物と化してしまう。どんな鮮烈な体験も、思いも色あせていく。我々は来し方を忘れてはいけないと自分への戒めも含めて制作しました」。
 柳井さんは10年前まで国立市に住んでいて、2006年から11年までくにたち文化・スポーツ振興財団理事を務めた。
 《パフォーマンス》
 9月7日(土)18時、三浦 宏予(ダンス)、笠松 泰洋(音楽)。9月14日(土)18時、木村 由(ダンス)、森重 靖宗(チェロ)。同美術館の入場料で観賞できる。

 ■柳井嗣雄展「発掘」 9月15日 (日)まで、13時~18時(月・火・水曜休館)、宇フォーラム美術館(国立市東4-21-10)。入場料500円(中学生以下無料)。電話番号042-580-1557同美術館

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