グランドピアノよみがえる

高齢者施設で温かく迎えられ

長年愛用してきたグランドピアノに別れを告げる麻生京子さん

長年愛用してきたグランドピアノに別れを告げる麻生京子さん

 本紙2月号で呼びかけた倉庫で眠っていたグランドピアノの新しい活躍の場が決まった。寄贈者麻生京子さん(67=川崎市多摩区)が16歳から愛用してきたグランドピアノで、同市麻生区にある住宅型有料老人ホーム「リアンレーヴはるひ野」に3月19日運び込まれた。搬入に立ち会った麻生さんは、早速、鍵盤に指を走らせて「音が澄んでいる」と、目を潤ませていた。

申し込み電話は10数件

施設長の崎山さんの歓迎を受けて(左から柴崎さん、崎山さん、麻生さん、麻生さんの長女・祐子さん)

施設長の崎山さんの歓迎を受けて(左から柴崎さん、崎山さん、麻生さん、麻生さんの長女・祐子さん)

 景気は上向き傾向にあるとは言え、先行きが見えにくい昨今。「寄贈先が見つかるかしら……」と、期待と不安を抱えていた麻生さんの元に、電話受付を始めた2月16日から10数件の申し込みや問い合わせが寄せられた。埼玉県入間市の重要文化財施設、越後湯沢の高級リゾートマンション、日野市の障害者施設など、熱心に申し込んでくれた。
 教育機関か、福祉施設に寄贈したい、できれば時折訪ねてボランティアでピアノ演奏やコーラスの伴奏をしたいというのが麻生さんの希望だった。申し込み者の中でも、「リアンレーヴはるひ野」の施設長・崎山綾子さんの声は明るく、「いつでも施設を見に来て下さい」とオープンで、麻生さんは心が動かせられた。幸いにも最寄り駅の登戸から、同施設のあるはるひ野駅までは小田急多摩線一本で30分足らずで行ける。

友人と寄贈先を下見に

早速、グランドピアノに近寄って、キーの感触を確かめる入居者も

早速、グランドピアノに近寄って、キーの感触を確かめる入居者も

 先月13日、麻生さんは桐朋学園大ピアノ科の同窓で、よき相談相手の柴山たづ子さん(小平市)と同ホームを訪ねた。はるひ野駅から7~8分の道々、柴山さんから「即答はしないでいいのよ。気が進まなかったら考えさせて下さいと、引き揚げてきましょう」と、アドバイスされた。
 2004年に開業した同駅周辺は、まだ新しいビルや住宅が目立つ。自立した高齢者から要介護5まで受け入れている「リアンレーヴはるひ野」も、昨年の4月にオープン。約2000平方㍍の敷地に、3階建て延べ床面積2600平方㍍に居室が60室。
 出迎えてくれた崎山さんは、電話の声通りにパワフルな人だった。通された多目的ホールは広々として、南側一面のガラス窓から、太陽が燦々と降り注いでいた。
 これまで近隣のホームから譲り受けたアップライトピアノで、音楽イベントなどを実施してきたが、劣化が進んで鍵盤の戻りが遅く、まともな演奏にならなかったという。
 崎山さんの友人でピアノ講師から「グランドピアノの寄贈先を探しているそうよ」と、本紙アサココの記事がファックスで送られてきた。「ぜひ手に入れたい」と、電話に飛びついたという。

「ふるさと」を連弾

 開放的でいてスタッフたちの目も行き届くよう配慮されている多目的ホールに、「ここなら、グランドピアノも大事にされ、お役に立てそうね」と麻生さんがつぶやいたら、「いいんじゃない」と、柴山さんが相槌を打ってくれた。
 先月19日の搬入の日、麻生さんは長女の祐子さん、柴山さんと再び同ホームへ。グランドピアノは空調の効いた保管室に預けてあったので、会うのは2年ぶり。柴山さんと連弾で「ふるさと」を弾いた麻生さんは、「娘の嫁ぎ先が決まったような感激で…」と、言葉を詰まらせていた。
 「平日の午後3時半以降なら、いつでも弾きにいらして下さい。コンサートも是非開いて下さい」と崎山さんは麻生さんらを見送った。
 その後、麻生さんの手配で調律師が訪れた。29日にはテナーサックスとピアノ演奏会が開かれ、麻生さんの分身だったグランドピアノは、半世紀を経て新天地で活躍を始めた。

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