vol.9 茅葺き住居 守るのは「使命」(檜原村白倉)

道路から家を眺める

道路から家を眺める

 材料や職人の不足などにより茅葺(かやぶ)き屋根が次々とその姿を消す中、「次世代につなぐのが私の使命」と2003年と08年に屋根を葺き直した住宅が檜原村にあると聞き、訪れた。
 北秋川沿いにある白倉地区の都道添いの石垣の上に、その家はある。江戸時代、代々「組頭」を務めた家で、築350年ほどと伝えられている。

髙木正二さん(右)と妻の奈加子さん

髙木正二さん(右)と妻の奈加子さん

 家主の髙木正二さん(72)は一級建築士。3代前から続く製材業を引き継ぎながら、住宅の建築設計に携わってきた。屋根に使う杉皮などを7年越しで準備し、南側の屋根を03年に、北側を08年に葺き替えた。
外から見た際に目に入った、妻側の軒下にある格子状の窓の中の様子を知りたくて、屋根裏を見せてもらった。懐中電灯を片手に急な階段を登ったその先は……、「真っ黒」。かつてあった囲炉裏から出た油煙によるものだ。一方、黒々と光った柱や茅にくくられた茶色い縄は03年と08年の修復時のもの。今はもう囲炉裏がないので、煤で燻されることなく結んだ時の色のままなのだ。
 フジの蔓(つる)、竹、稲わらを編んだ縄、番線、銅線……、いくつもの結び目から、結う素材の変遷が伺える。


光が差し込み、風が通り抜ける屋根裏。お膳や柳行李、かつて養蚕に使われた糸巻き道具なども置かれている

光が差し込み、風が通り抜ける屋根裏。お膳や柳行李、かつて養蚕に使われた糸巻き道具なども置かれている

  格子状の窓を、髙木さんは「ネズミ格子」と呼ぶ。採光や通風を目的としたものだが、当然のように虫やヘビ、ネズミ、ムササビなども入り放題。でもこの家では、板やサッシで閉じることなくそのままだ。「誰とでも共生していかなくちゃ」と髙木さんは笑う。
 かつて囲炉裏があった部屋に下りる。今、天井になっている所は、かつては板がすのこ状に置かれていて、冬、囲炉裏の火にあたっていると、ネズミ格子の間から降り込んでくる雪が足下までハラハラと舞ってきたこともあった。
 髙木さんは小学6年生のころ、父親が周囲を説得して家の大修繕に踏み切ったことをよく覚えていて、以来、「先祖から預かったものを自分も伝承しなければ」との思いをずっと抱いてきた。
妻側の軒下に見えるのが「ネズミ格子」。格好が美しい

妻側の軒下に見えるのが「ネズミ格子」。格好が美しい

 夏は涼しく過ごしやすいこの家だが、秋冬は隙間風が寒く、定期的な修繕も必要だ。それでも「屋根裏の黒光りは暮らしの中で自然についたもの。いい色しているでしょう。なくすのは簡単だけれど、二度と再生はできない」
 建築はかつて、その土地にある材料を使って風土に合った手法で、それらを熟知した職人が手がけてきた。材料も職人の技もなくなりつつあるが、「時代が変わっても、帰ってくれば同じ姿で出迎えてくれる『ふるさとの家』を守り続けたい」と髙木さんは話す。

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