vol.44 東松島、人々の記憶を訪ねて(4)

刺繍でまちを元気に

 宮城県東松島市・矢本運動公園にある仮設商店街に、2015年の11月、一軒のカフェがオープンした。地元の名物や刺繍(ししゅう)商品の販売の店でお茶も楽しむことができる。

「東松島ステッチガールズ」が運営

小野さんと名画を模写した作品

小野さんと名画を模写した作品

 東日本大震災で多くの被災者を出した東松島市では矢本運動公園に、仮設住宅と仮設商店街を設けた。商店街の一角に、カフェをオープンさせたのは「東松島ステッチガールズ」(以下、ステッチガールズ)だ。
 ステッチガールズは震災で被災した女性たちで作ったグループ。2013年に、東松島市とフランス刺繍の専門店「DMC」、タレントの岡田美里さんの呼びかけに応えて発足した。メンバーは岡田美里さんが、被災者向けに開いたクロスステッチ教室に集まった女性たちだ。20~70代の手芸好きな女性たち65人が活動する。
 糸をX状に交差(クロス)させて刺繍するクロスステッチ。ステッチガールズのクロスは通常のものよりもさらに小さくて1ミリ単位だ。そのため作品は重厚で芸術的でもある。これまでは手作りした小物はネット販売するだけだったが、カフェを開設したことで商品販売のみならず、地域の居場所にしたいと意欲的だ。
 この日、カフェでは2人のメンバーが接客をしていた。小野たか子さんと保原絵里さんだ。

「刺繍しながらいろんなことを考える」

接客中の小野さんと保原さん

接客中の小野さんと保原さん

 小野さん(60代)は矢本仮設に住んでいる。被災する前は漁師をやっていたが、仮設に入居してからは何もしないで引きこもっていたと教えてくれた。
 「外に出ようとコンビニで働いたことがありますが、この刺繍を知ってから少し自分を取り戻せたようです」
 手を動かし一針一針刺していくと、心が落ち着き、みんなと一緒にやることでつらい気持ちを忘れることができるという。わいわい楽しみながら製作し、時には津波の話しも出るがそんな時には励まし合うんですと語ってくれた。
 「私はまだ仲間になって日が浅いんですよ」と保原さん。刺繍の経験があるので仕事としてステッチガールズを選んだという。

仮設商店街にできたカフェ。紅茶とデザートが楽しめる

仮設商店街にできたカフェ。紅茶とデザートが楽しめる

 メンバーの一人、新妻佳子さんは「被災して多くのものを失ったからこそ、こうやって自らの手で何かを生み出すということに意味があると思います」と言い、時間と思いを共有する「場」があるから、さらにつながれますと明るい。
 商品を作り、店番をして、時にはみんなで泣き笑いしながら、被災の記憶を語り継ごうとする「おんなたち」がここにいる。
 (介護福祉ジャーナリスト・甘利てる代=八王子市) 

 

■DMCショップ東松島店・ステッチガールズカフェ

10時~17時、木曜日定休。電話番号0225-28-4367

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