vol.29 仮設の新たな課題に向き合う

 被災3県の中でも甚大な津波被害となった宮城県石巻市。震災から1年3カ月後に訪ねた巨大仮設と、そこで制度外の支援を行う「あがらいん」を今夏、再び訪れた。コミュニティーは復活したのだろうか。

人々の暮らしが息づく「場」になっていた

食堂入口に設けられた販売コーナー

食堂入口に設けられた販売コーナー

 「いらっしゃいませ」
 明るい女性の声が響く。ここは石巻市にある開成仮設団地内「石巻・開成のより処 あがらいん」(運営はNPO法人全国コミュニティライフサポートセンター、以下CLCと略)の食堂だ。
 この日は、週に1回のランチを提供する日だ。500円で誰でも利用できる。
 食堂の入り口近くに設けられた販売コーナーには野菜や果物、パン、菓子などが並んでいる。売っているのは、こちらもエプロン姿の男性で、あがらいんの福祉仮設住宅の住人だという。
 品物を購入するのはランチを済ませた客や、仮設から買い物に来る人だ。声をかけたりかけられたりして、訪れた人の笑顔を生む。前回の訪問時と比べると来訪者も多く、何といっても人と人との交流の場として根付いていることがうかがえる。
開成仮設団地は約1800戸、 約4000人が暮らす

開成仮設団地は約1800戸、
約4000人が暮らす

 「あがらいん」は石巻市の委託を受けて仮設団地の真ん中にある2棟を使って運営されており、福祉仮設と地域支援事業を行っている。制度からもれてしまいがちな仮設の人たちの個別支援を行うのだが、まずは仮設の部屋から出てあがらいんに足を運んでもらうための仕掛けも多彩だ。
 食を介在とした食堂開催や食材や総菜を販売するキッチンカーをはじめ、地域交流スペースで行うカラオケサロンや子育て支援、学齢期の子どもへの学習支援、各種イベントなど盛りだくさんだ。仮設で暮らす被災者が、自分の意思で出かけられる居場所として力を発揮している。

長期化する課題

「あがらいん」チーム長高橋正佳さん

「あがらいん」チーム長高橋正佳さん

 あがらいんのチーム長である高橋正佳さんは、「3年経って、見ず知らずの人々の間にもコミュニティーができてきたようだ」と教えてくれた。
 一方、仮設に住む人々が抱える課題は少なくなく、また多岐にわたる。高橋正佳さんは「ほとんどの仮設団地ではどんどん住民が出ていき、空き室が目立ってきました。被害が大きかった石巻は災害公営住宅の整備が他県よりも遅れていて、多くの人が来年以降でないと移れません。最近では待ちきれずに自力再建する人が目立ちます」と現状を語ってくれた。
 今後も仮設で問題になるのが、アルコール依存や精神疾患が原因の近隣とのトラブル、さらに夫婦間のDVなどである。
 被災者への支援は一段落したと思われているが、実は長期化しているという。失ったものが大きすぎるのだ。
 被災者の心に届く支援を息長くしていきたい。
 (福祉ジャーナリスト・甘利てる代=八王子市)

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