vol.5 三鷹文学散歩

文学者たちの創作の地・三鷹をそぞろ歩く

文学を育てた街

01_P057_arucoco_02 三鷹の街には文学の香りが満ちている。4年前に三鷹市市制施行60周年記念として三鷹市美術ギャラリーで開催された『三鷹ゆかりの文学者たち』展では、多くの文学者が三鷹に暮らして作品を書いたことなどが紹介された。
 三鷹は、1889年(明治22年)の市町村制施行により、神奈川県北多摩郡三鷹村として誕生し、4年後に東京府に入った。「三鷹」の名は、野方領、世田谷領、府中領の3つの領(明治期まで使われていた行政区分)にまたがる、かつての「鷹場」が集まってできたことに由来するといわれている。
 三鷹は、東京都心部と武蔵野地域の境に位置する。日本近代文学研究者の紅野謙介氏は、冊子『三鷹ゆかりの文学者たち』の中で、「郊外に住むことは、近代化する大都市東京に依存しながらも、その中心に距離を置くことでもある」と書いている。文学者たちが、東京の中心からつかず離れずの距離を保ちながら、創作の場として三鷹を選んだことは、今ここを歩いてみてもなるほどと思わせる。
 三鷹駅南口からのびる中央通りには、三木露風、武者小路実篤、太宰治と亀井勝一郎、山本有三の4つの文学碑がある。彼らの他にも、大沸次郎、辻井喬、瀬戸内寂聴、宮柊二・英子、吉村昭・津村節子、大岡信、井上荒野、李恢成、高村薫、奥泉光、平田オリザなど、三鷹ゆかりの文学者は数多い。それらの作品の中に、ひそかに三鷹の空気が内包されていると思うと楽しい。

作家の足跡を訪ねて

 中でもやはり「三鷹の文学者」として特に知られているのは太宰治と山本有三だろう。太宰治ゆかりのスポットにはわかりやすい説明板も設置してあるし、本町通りには太宰の手紙や原稿を展示した「太宰治文学サロン」もあり、全国から訪れるファンの関心に応えている。
 山本有三記念館は、玉川上水沿いを吉祥寺方向にのびる「風の散歩道」を歩いて行くと右側にある。門の前には「路傍の石」が置かれ、建物は大正時代に建てられたイギリス風のしゃれた洋館。手入れが行き届いた館内と庭は、そこにいるだけでくつろげる。

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